遺書遺書21年の月日が流れた 私は今日まで死ななかった 今こうして生きていることに さりとて 喜びもない いつ死んだところで 別に かまわない 人は必ず死ぬのだ それが 老いぼれてからであろうと 若い今であろうと さほど 違いはない 生命のある限り 何かに打ちこめるというのなら 話は別だが 21年間 生きてきた しかし 今 俺は生きているんだ 俺はまだ死にたくない そう思えた日々が 何日あるだろうか 自分の存在というものに気づいてから 今日までの約10年の間に いったい 何があったというのだろうか 私は 何ものからも自由になることを 望んだ 親と子という関係からも 男と女という関係からも 私を育てた環境からも ・・・・・・ ただ私は 自分の意思に従って 自分というものを成長させ その意思によってのみ 私でありたかった 私は 全てから自由だ そして 私は 断絶の中で 今 孤独を感じている ひとたび この断絶の深さを知ったものは もう 虚像の美しさに酔いしれることは できないだろう 虚像の世界 そこに 私はもう 生きる価値を見いだせない 虚像の愛と幸福 それはそれでいいのかもしれない だが 私には 何の意味もない 薄汚れた都会の空しさに 私はもう 疲れてしまった 極彩色のネオンの輝きが どろどろとした嘔吐の中で 色あせ 消えてゆく 私は 今 遺書を書く 自殺しようとも思わぬが いつまでも 時の流れに流されていたくもない 自分の生命を投げ出しうるもの それを求めて 私は 旅に出よう そして 旅だちの前に 遺書を書くのだ 私が生きていたことを示す 唯一の証し 読む者もなく 理解しうる者もなく やがて 朽ち果てるであろう 紙きれとインクのしみ その為に 今 青い血をしたたらせて 白々しく私を見つめるお前を 埋めつくしてやろう (1975.3.21) ジャンル別一覧
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